| 「七つの感覚」 |
| 上里 剛士(山口市、出版社社長) |
| 古代ギリシャから五感とは視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚に分類して今に伝えられてきた。しかし人間の脳は、さらに時間感覚、距離感覚、群れ感覚、平衡感覚、立体感覚、比較感覚、皮膚感覚などを備えている。あとの七感は、人間が生物として組織を動かしていくときに必要とされてきた感覚である。これら七感が退化しつつある。アカデミックに社会が進化して便利で合理的になりすぎて、何か動物的な知的触覚のような七感が鈍ってきた。便利になると不便を嫌うようになる。それが脳のネットワークに組み込まれる。つまり足で考え、鼻で訴えるような脳力が縮んできたのだ。何かを探るにも、非論理的なことや無駄を避ける。論理と非論理のバランスが取れなくなる。先読みができにくい鈍感人間が増えた。そのぶん、危機管理が苦手になった。七感の「カンデミック」を社会全体で見直す時期にある。たとえば縦割りはよくない、といいながら、消え去るどころかピンピンしている。群れ感覚とか平衡感覚、皮膚感覚が鈍っているからだ。その結果、理屈っぽく勝ち組みとか負け組みとかを言い出した。これは社会の負のサインである。今こそ七感を鍛え直し、全体の中での自分の位置付けを確認できる、危機対応型の社会を作るべきだろう。カン脳力を取り戻し、自己管理ができる人間を増やさないと。 |
| プロフィール:あがりつよし。萩市出身。早稲田大を経て大手週刊誌の編集に携わる。出版社を立ち上げ、現在は執筆活動にも力を入れる。山口市宮野上。62歳。 |
|
| 「北米航路」 |
| 下村 常広(宇部市、絵画グループ主宰) |
北太平洋に面したアラスカ地方の材木を日本に運ぶのを、北米航路と呼んでいました。夏のアラスカは、抜けるような青空!さわやかな気候で、海はかぎりなく青く澄み、夜の時間はわずか3時間程度。この快適な期間は短く、冬の北太平洋は毎日が大荒れの日々。往路は空船で軽く、波にほんろうされながらの航海。復路はデッキまで山積みした材木の荷崩れを気にしながら、「泣く子も黙る」命がけの航路です。当時、乗組員の1等機関士であったI氏は実にユニークな人。入港すると干潮時を見計らい、海岸で麻袋いっぱいの貝を採ってきては、航海中はこの貝で晩酌していた。
ある氷雨模様の日、私とI氏で散歩へ。コンテナハウスの庭先にムースの頭が転がっていて、解体が終わったばかりか、周囲は赤く染まっているのに出くわした。I氏、住人のアラスカインディアンに「肉を売ってくれ」と交渉。快くハウスの中へ。出された「スギナの塩漬け」をジャリジャリと食べていた。買ってきたムースの肉をすき焼きに。さほどおいしいと感じなかったが、思い出深いできごとでした。
このI氏と先日、20数年ぶりに再会。相変わらず、海、山、川と食料探しに奔走しているらしい。この人、この世に食料が無くなっても生きのびる雑草のような印象深い人物でした。 |
| プロフィール:しもむらときひろ。鹿児島県いちき串木野市出身。第一美術協会本部準会員。同山口支部会員。絵画グループ「あすせんと」代表。宇部市際波。67歳。 |